わずかなズレは、

後になればなるほど



気づかずに


大きな、
とりかえしのつかないものとなっていく。






12.淡い光がもつ輝き  後







「ここは・・・・?」

降ろされた先には一軒の民家。


ここがカカシさんが見せたかったものなんだろうか。


、こっち。」
カカシさんは私を呼びよせて、その民家の中へと入って行く。


「こんばんはー。」

カカシの声に1人の老婆が反応する。

「あら、先生。そろそろだと思ってたんですよ。」

「今日はお世話になります。」

「いいえ、こちらこそ。そちらの方がさん?」



え?あ、・・・私?


は戸惑ったが、初対面なのでとりあえず挨拶をする。


「あ、えっとと申します。はじめまして。」

は目の前の女性にぺこりとお辞儀をした。


「はじめまして、今日はよろしくねさん。私ミツと言います。」


「はぁ。」


「あら、もしかして先生ったら何にも説明してないのかしら?」

「ハハハ、その通りです。」

「まぁ、それじゃあ突然でお困りでしょう?こんなところじゃなんですから、どうぞ中にお入りになって。」



ミツ、という女性に言われるままにはカカシと共に家の中へと入った。

「お邪魔します。」

「汚いところでごめんなさいね。」


そう言って笑うミツさんは、恐らく60代ほどの歳なのだろうが
全く衰えない容姿と、その機敏な動きに50代にも40代にも見えた。

身のこなしは上品で、この民家も古いには古いが住む人を映すように気品が溢れてる。


実際60代って言われた方が驚くかも。

「あんまり時間もありませんしねぇ、説明は着付けをしながらでも構わないかしら?」




「着付け、ですか?」



さ、今日は浴衣着てみない?」

後ろに立ってさらっとそう言うカカシを思わず振り返る。



「浴衣??なんでまた突然。」

の頭にはてながいくつも浮かぶ。


「ほら、先生。さんにきちんと説明しないからですよ。」

ミツさんは戸惑う私をクスクスと笑いながらそう言う。


「イヤ?」

「嫌って訳ではないですけど、・・・というか喜ぶ以前になにがなんだかって、かんじです。」

「そうだよねぇ。」

そうだよねぇって、カカシさんが見せたいものがあるってしか言ってくれないからこんなことになるんじゃないですか!



「とりあえずミツさん、始めちゃったらどうです?」

「そうね。さん、こちらへどうぞ。先生はそちらでお待ちくださいね。」

「はい。じゃあ、後でね。」


1人置いてきぼりな状況に、まぁいいやと思いつつ入った先には浴衣が一枚。
黒地に水色の、名前はわからないけど少し大きめの花が布の所々に綺麗に咲いている。


地味だけど、きっとそれが着た人を美しく引き立てるのだろう。



「綺麗・・・。」

「あら、ありがとう。」

「え?これまさかミツさんが?」

「布は反物屋から買ったものなんですけどね。さぁさ、さん始めますよ。」

「でも、そんな大切な浴衣を私が着てもいいんですか?」

「いいんですよ。その為に今日カカシ先生に連れてきていただいたんだもの。」



「はァ。」



は着ている物を脱ぎ、浴衣を羽織る。
シュルシュルと、ミツは慣れた手つきで着付けていく。




さん、年寄りの昔話と思って聞き流してくれて構わないんですけどね。昔、私に孫がいたの。」

「はい。」


手元の作業はそのままに、ミツは話し始めた。


「孫自体何人もいるんですけど、やっぱり初孫っていうのはうんと可愛くてねぇ。女の子だったんですけど、私猫可愛がりしてしまって。」




「実は、気を悪くしないでちょうだいね?この浴衣もその子の為に縫ったものなの。」




「えぇ?!じゃあなおさら、」

さん、ダメよ動いちゃ。」

慌てるを正して、ミツは変わらず着付けていく。


「いいのよ。その子のためにね、小さな時から大きくなって着れなくなるたびに一緒に反物屋へ布を選びに行って。
 こうして話しながら着付けるのが、楽しくてねぇ。年寄りの唯一の楽しみとでもいうのかしら。せっせとその子の為に縫い上げて。」




まさか、



「ミツさん。」

「その子、サツキって言う名前だったんですけど。サツキはくの一でね。」





「この浴衣に袖を通す前に、任務で殉職してしまったのよ。」




「あ、そんな・・・」



私はなんと言えばいいのか、本当にどうすればいいのかわからなくなった。


「はい、出来ましたよ。」

「あの、ミツさん!」

さん、せっかく綺麗に出来たんだもの。脱ぐなんて言わないで下さいね?さ、次はこちらに座ってくださいな。」

は戸惑いながらも、鏡台の前に座らされる。



「でも、・・・だってこれはサツキさんの・・・サツキさんのためにミツさんが作った浴衣ですよ。」


「カカシ先生にね、先日任務として来ていただいた時にその話をしたんです。着せてやりたかったって。
 もう十分生きたんだから私が変わってあげたかったって。そしたら先生ったら、」




『人が死ぬのは、いつも突然で理不尽なもんです。人が死ぬのに理由なんて本当はないんじゃないか、とも思います。

 たまたま、それが身近な人だったというだけで。

 サツキさんの事は存じ上げませんし、ミツさんのお気持ちをわかって差し上げることは誰にも出来ません。


 ・・・でも、それでもどれだけ苦しくてもツラくても残された側は精一杯故人の分も生きてくしかないんだと、オレは思います。生意気ですが。』





「ですって。」

「そんな、そんなのって!」



さんは大切な人を亡くしたことは?」


「あ、いえ・・・ないです。」

「忍ですものね、きっと先生は大切な方をたくさん失ってきたんじゃないかしら。自分でそうおっしゃりながらもとても辛そうでしたよ。」




「カカシさんが・・・?」


今までそんなこと考えたこともなかった。
カカシさんが死に近いことはわかっていても。

そっか、どうして今まで気づかなかったんだろう。



カカシさんが死に近い分、それはカカシさんの大切な人もそうだということなんだ。



「だからっていうのもありますけど、先生にそう言われて何だかスッとしちゃって。
 だったらその勢いでこの浴衣を手放せば、私の心残りも晴れるかしらと思ったんですよ。

 それでどなたか女性を紹介して頂いて、その方にお譲りする前に私に着付けをさせてくれないかって・・・」




さん?」

ミツさんにカカシさんのことを言われてから、何だかボーッとしてしまっていた。



「あ、はい。」

「ごめんなさいね、さんをだしに使ったみたいで・・・そんなこと言われたら誰だって嫌よね。」

「あっ、いえ!あの私でよかったらどんどん使って下さって構いませんし。その・・・綺麗な浴衣に負けてしまってサツキさんほど似合わないかも・・・しれませんが。」

「そんなことないわ。ほら、顔を上げてちょうだい。」




「え・・・ぁ。」



ミツさんに着付けてもらい、髪まで結ってもらった自分が鏡に映る。


「ほら、ちゃんと綺麗でしょう?浴衣に負けてるなんてとんでもない!」



アタシじゃ・・・ないみたい。


見慣れぬ姿の自分に、確かに自分に違いないが心がふわふわしている。

「お化粧も少ししましょうか?」

「あ、ハイ。お願いします。」


もう、されるがままだ。

これでミツさんの心が晴れるなら。



そう言い聞かせながらも、はどこかこの姿を見たらカカシはなんというのだろう。と、そのことばかりが頭の中を駆け巡っていた。




まーだかなァ。」

カカシはイチャパラを広げながらもの浴衣姿を思うと、一向に文字が入ってこずなんだかそわそわしている自分がいる。



そりゃー楽しみでしょ。



がミツに連れられて部屋に入ってから小一時間はたつ。




あーもォ、ガキじゃあるまいし。
軽く緊張までしてるオレってどうよ?


ハァ、と逸る気持ちを落ち着かせる為にもカカシは息をはく。



それからさらに30分ほど経ってからガラリ、と襖があいて2人が出てきた。

「先生、お待たせしました。」

ミツの後ろからやや下を向いたが姿を現す。




「あ、」




ヤバい。

これは・・かなりヤバいでしょ。


だって反則だよ。



「あの、カカシさん。」


「え?あ、あー・・・その。」

「変、・・・ですか?」

「あら、そんなこと。先生ったら見とれちゃってるんだわ。」


「うん、ぜんっぜん変じゃない。むしろすんごくキレイすぎて、」

「すぎて・・・?」



困る。

だってキレイで。



なんていうか、その・・・、色っぽいんだもん。



髪を高く結い上げているため、うつむく際にパッ、と目に入る白いうなじだとか
いつもより強調された身体のラインだとかがイヤでも目に付き


いけないと思いつつもよからぬ思いに駆られてしまう。


カカシはこの時ほど、自分の顔の大半が隠れていることがよかったと思ったことはない。

それほどに、今自分がどんな顔をしているか。



あーもう。




「なんでもなーいよ。じゃ、行きますか?」

「え?ここからさらにどこか行くんですか?」

「もちろん。」


「行ってらっしゃい。今日はお2人ともありがとうございました。」

笑顔で見送るミツに、は先ほどから考えていたことを話す。



「ミツさん!あの、・・・私この浴衣はミツさんが持ってるべきだと思うんです。」


「あら、そんなこと。確かに売り物に比べたら大したものではありませんけど、」

「違います!」


言葉を遮るように少し大きな声で述べたに、思わずミツは言葉を飲み込んだ。

「あ、すみません。大きな声だしてしまって。あの・・・私、思ったんですけど確かに亡くなった方をいつまでも想い続けても・・・どうしようもないのはわかります。
 でも、浴衣はサツキさんとの大切な想い出でしょう?この浴衣にサツキさんが袖を通すことはありませんでしたけど、
 この浴衣にはミツさんのサツキさんへの想いが込められてるじゃないですか。それまでの浴衣と同じように。」




「だから、・・・だから私、そんな大切な想い出まで手放して、忘れてしまわなくてもいいと思うんです。」



さん。」

ミツは驚きながらも、次第に目に僅かに涙を浮かべる。






カカシは少し離れたところから一生懸命なを、優しく見守る。


「そうね、・・・さんがそう言ってくださるなら。じゃあ、私と1つ約束していただけないかしら?」



「約束、ですか?」

「えぇ、」

「来年もその次の年も、私が生きていたら貴女にこの浴衣を着付けさせて欲しいの。・・・ダメかしら?」

「あ・・・はい!ありがとうございます。」



この先どうなるかわからなくても。
明日もし元の世界に帰ることになってしまったとしても。



私は頷かずにはいられなかった。


それからミツに後日浴衣は洗って返すと約束し、再びカカシに抱きかかえられながら本日の本当の目的地へと向かった。



、目つぶって?オレがいいって言うまで開けちゃダメだよ。」


「・・・はい。」

カカシのいう通りにし、しばしに暗闇が訪れた。



ふわ、と丁寧に足から地面に降ろされ少し不安に思いながらも、すぐそばにカカシさんがいると思えば平気だった。



「いーよ。目、開けてみて?」


そう言われて、はゆっくりと瞼を持ち上げる。




「・・・これって、」

「うん、これが今日の最終目的v」




真っ暗な林の中にわずかに月の光がさしこみ

さらに辺り一帯をふわふわと淡く光る黄緑色のものが、とカカシを包むように周りを飛び交う。



「ホタル?」



「そ。ここら辺、ホタルの生息地なのよ。」


「すごい・・・。私、ホタル初めて見ました。」


淡くて、

でも相手を求めて輝くホタルはわずかでも強く、しっかりとした光を発している。



は幻想的な光景に言葉を失った。




人って感動したら何も言えなくなるんだ。

「あの、なんて言っていいのか、・・・わかりません。」

「ハハハ、らしーね。」



しばらくはホタルの世界に浸っていた。
時折手を伸ばして、指にとまるホタルに顔を綻ばせながら。


そんなの世界にカカシは恥ずかしながら、幸せの意味をぼんやりとかみ締めていた。



少し落ち着いたころ、ようやく2人は話し出した。

「私、本当はいけなかったんでしょうけど迷う前にミツさんと約束してしまいました。」

「あぁ、来年もその次もってやつ?」

「はい。」

「いいんじゃないの、別に。約束に絶対がないってことは、多分ミツさんもわかってるよ。」



「そう、・・・ですよね。」

それまでの明るい表情から少し暗い顔ではうつむく。


「私、ナルトくんともお花見の約束をしました。サクラちゃんにも料理教えるって、誰かと関わる度に約束が増えていくんです。
 さよならするときもまたね、って別れて・・・そのまたねが来ないかもしれないのに。」


「ねぇ、?」


優しく名を呼ぶ声に、は自然とうつむいていた顔を上げてカカシの瞳を見る。




「それは、多分誰でも一緒。」


「え?」

「明日どうなるか、なんてそんなの誰にもわからないよ。」

この目があってもね、カカシさんは額あてに隠されている瞳をトントン、と人差し指で叩く。



「オレが忍だからとか、が違う世界から来たからとか、関係なく。
 オレは明日死ぬかもしれない、は明日、この瞬間にも元の世界に帰ってしまうかもしれない。」

「カカシさん。」

「でもね、オレは明日も生きてるかもしれないし10年後も生きてるかもしれない。そしたら忍は、まぁ続けてるだろうけど。でしょ?」




「未来がどうなるかわからないからって、そんなの約束しちゃいけないことにはならないよ。約束は時には人を強くもする。叶えようって気持ちがね。
 は元の世界で自分がいつ死ぬかわからないからって、友達と食事の約束をためらったりする?」


は首を横に振る。


「でしょ?きっとそれとおんなじだと思うなーオレ。」

「はい。」

泣きそうになるのをは必死に堪える。



ダメ、泣いたらだめ。

私ったらこの前から泣いてばかりじゃない。



「元気、出た?」

「カカシさんがそんなこと言うから、むしろ泣きそうです。」

「うそォ?が泣くのって大半オレのせいだよねーちょっとショック。」

カカシはがっくりと、肩を落として見せる。


・・・もちろん本当に落ち込んでいるわけではないが。



「だって、・・・」

「ん?」


「カカシさんって私に甘いんですもん。いつも欲しい言葉くれたりするし。」



そりゃーね。
どんだけオレがキミを想ってるか知らないでしょ。


「ハハハ、まーね。」



「あーだからですか。はぁ〜納得です。」

「は?ちょ、何のこと?」



チロリ、とは視線を横に向ける。

「よく女心がお分かりだなーと思いまして。」


「な、ちょっと。なんか勘違いしてるでしょ?」

「さぁ〜?どうでしょうね。」



オーイ、それ絶対誤解だって。

、」

「もういいですー。あ、そう言えば知ってます?」



イヤ、オレとしては全くよくないんですけどね?


「なーに?」


「ホタルって、亡くなった人が生きてる人に会うための仮の姿なんですって。」

「へぇーそうなんだ?」

「迷信ですけどね。小さい時におじいちゃんにそう教わったんです。おじいちゃんの家の近くはホタルがいたそうなんですけど。
 ばぁさんがワシに会いに帰ってくるんだぞって。生身の身体はなくなちゃってもう戻れないから、ホタルの身体を借りるんですって。」


は手のひらに止まるホタルを見つめながら「貴方も誰かに会いに来たの?」なんて呟く。




「だからかな、」

「え?」


「だからこんなに必死に、大切な人に会いたくてホタルは光ってるのかなーなんてね。」

カカシはを見て微笑む。


「そうかもしれませんね、というかステキだからそういうことにしましょう!」

「アハハ、それもそーね。」





「じゃあ、この中にオレの大切な人たちもいるかな?」




「カカシさんの大切な人・・・?」

の脳内に先ほどのミツの言葉が甦る。



『忍ですものね、きっと先生は大切な方をたくさん失ってきたんじゃないかしら。自分でそうおっしゃりながらもとても辛そうでしたよ。』


「そ。」


そっと、


ゆっくりと。


カカシさんは宙を飛ぶホタルに手を伸ばす。





「先生も親友も仲間も親父も今まで大切に思ってきた人はみーんな死んだよ。オレを置いて。」



「・・・。」


は言葉を失った。

ミツの時と同じように。



だって、大切な人を失う悲しみは私にはわからないのに。

きっとこの世のどんな言葉をかけても、的外れでしっくりこないに違いないと。




は言い訳ではなく本気でそう思った。


「でもね?」

下を向いたまま言葉を失った を見て、カカシはそっと微笑みながら言葉を続けた。

「それからは失うのが怖くて繋がろうとなんてしなかった。1人里のために死んでいくのもいいかなーなんて思ったりもした。」




が現れてからだよ。もう一度大切なものをつくってもいいんじゃないかと思ったのは。
 それからは色んなものが愛おしく感じれるようになってさ。ナルトやサクラにサスケたち部下や、忍犬たち、里の仲間たち、たーくさん。」




「カカシさん。」


「ハハハ、ホントだよ。のお陰なんだ。を見てたらさ、いろんなものを片っ端から断ち切ってる自分がバカらしくなっちゃって。」


「私は大切な人を失う悲しみは・・・わかりません。でも、大切なモノを愛おしく思う気持ちならわかります。」

「ん、そーね。は天然でわかってるよねぇ。それって結構すごいことなのよ。」

「そうですか?普通ですよ。」


それが普通じゃないんだなーこれが。




多分、の存在を温かく感じるのも。

のそばにいたいと思うのも。



は臆せずに、大切なモノや人を素直に大切だと言いきるから。
その手で一生懸命に護ろうとするから。



例えそれが失う悲しみを知らないからだとしても。




臆病になりすぎた自分にはそんなの姿が眩しく見えた。





「こんな風に、少しでいいからこちらの世界の大切なものや人がカカシさんと同じだったら嬉しいなー。」



多分ほとんど無意識。

自分でも心の中で言ったつもりだったのに、まさか口に出ていたなんて。



?」

「あ、あれ。口に出てました?いや、あのーアハハハ、なんでもないです。」


いつものカカシさんなら、ちゃかしの一言がここで入るのに。



「ぁ、」

まっすぐな瞳が、私を捉える。



どうしよう。

目が離せない。



カカシさんの手がゆっくり伸びてきて、私の頬に触れる。


そこからはまるでスローモーション。
口布を反対の指で下げ、

露になったカカシさんの唇が、ゆっくりと私の唇に重なる。



感触なんて、感じる前に脳は機能を停止してしまったようだ。



一瞬なのか、数秒なのか。
停止した脳では時間の感覚すらわからない。



カカシさんの顔が離れて、再び目が合ってやっと。



脳は再び起動しはじめた。




「・・・・。」



「あれ、いつもみたいにならないの?」



「・・・・怒って欲しくてやってるんですか。」

「そんなわけないでしょ。いや、いつもなら顔真っ赤にして照れてるからさ。今回は違うのかなーと。」

「言葉にならないくらい怒ってるんです。」


その言葉にはさすがのカカシも慌てた。

「え?うそ、ごめん。」

「うそです。」


謝るくらいなら最初からしなきゃいいじゃないですか。


本当はすごく恥ずかしくて、いつもの私なら照れまくる所なんだろうけど。
いや、実際カカシさんの顔がさっきから全然見れないしかなり恥ずかしい。



だってカカシさんの唇が私の口とくっついたんだよ?



遅れて今になって感じるカカシの柔らかな唇の感覚に、の頭は爆発しそうだ。





しかしその一方で、驚くほど冷静な自分もいる。

同じ行為なのに自分とカカシさんとのキスの意味合いが、遠くかけ離れたものかもしれないという思考がふいに頭をよぎり
それがの反応を鈍らせていた。



私にとっては恋人同士が愛を確かめあう行為でも。


カカシさんにしたら、それは単に男慣れしていない私の反応が楽しくて、からかうためのものに過ぎないのかもしれないし。
別に今までにたくさんしてきたから、キスくらい雰囲気で気軽にするものなのかもしれない。




?」

それきり反応がないの原因が自分にあると思ったカカシは、顔に出さないまでも急に不安になった。



イヤだったかな。
甘い雰囲気になったからキスくらいなら許されるかなーと思ったんだけど。




っていうか、我慢の限界だったっていうのもあるけどね。

正直、がどんなかわいい反応見せてくれるか楽しみっていうのもあったし。



少々あてがあずれたカカシは、この場をどうしようか悩むと同時にの反応にちょっと、



いやかなりへこんでいた。



「あの、サーン?イヤだったんならもうしないから。」



カカシのその言葉にはそれまでの考えを止め、ハッとしてカカシを見た。


別にキスくらい、なんだっていうのよ。
大事にしたって。



きっとそんなのカカシさんにしたら重たいだけよね。






この時、2人の想いはわずかにすれ違った。




「あ、いえ。あはは、別にキスくらい平気です。さてそろそろ帰りましょう!カカシさん明日も任務ですよね。」

「・・・うん、まぁそうだけど。」



カカシはこの時、が無理に笑うのを決して見逃さなかった。


が、追及も出来なかった。



の平気ほどあてにならないの、オレ知ってるのよねー。
少しくらいは自信あったのになァ、何がいけなかったんだろ。



カカシはと他愛もない会話に応じつつも、頭の隅ではたどり着くことのないの想いに考えを巡らせていた。



「私、浴衣って久しぶりに着ました。」

さっきまでの事なんてなんでもないように装う



少しは進展出来るかな、なんて淡い期待を見事にうち砕かれて柄にもなくへこんでいたせいもある。
カカシはが何事も無かったようにする態度に、この場は合わせた。



「そう?すごく似合ってるよ。」

「そうですか?えへへv」

「じゃあ、・・・帰ろっか。」



「はい。あ、」

「ん?」



来た時と同様、を抱きかかえようとしたその時。



「夏らしいことのついでに、今度花火がしたいです。」


「花火かァ、いーね。また2人で、」
「今度はナルトくんたちも誘いましょう♪子どもって花火好きですよね?」




なに?

今の。



些細な事ではあったが、2人でと言いかけた自分の言葉を遮って
無理矢理、が話を続けた事がカカシとしてはかなり気になった。



「カカシさん?」



しかも、それに気づいてるくせに何でもない風を装ってるなんて。


「ん、なんでもない。じゃ、帰るとしますか。」



よ、とカカシがに触れた瞬間。




が不自然に身体をびくつかせた。



しかし今度はカカシがそれに気づかないフリをしてそのまま家へと向かい、その後何も無かったかのようにお互い寝る支度をした。


「おやすみなさい、カカシさん。」

「ん、おやすみー。」




パタン、と自室の扉を閉める

カカシも自分の部屋へ行き、ベッドへと腰を下ろした。





「ハァ〜〜。」


やっぱ、口にキスはまずかったか。
結構いい雰囲気だったと思うんだけど。



少しは自信もあったのに・・・・な。



ボフッ、っと布団に顔を埋める。



あぁ〜〜〜どうしよう。
オレ、もしかしてスゲーやらかした?


だってさーしょうがないじゃない。
抑えがきかなかったんだもん。


つーか、あの場で手を出さない男がいるならお目にかりたいもんだね。



あーくそ。
これなら面と向かってキライって言われたほうがマシだったかなー。



イヤ、そんなこと言われたらオレ立ち直れないかも。






あぁ、やっぱり私おかしかったかな。
なるべく何でもない風に装ってみたけど・・・。



だって、そんなこと言ったってキス・・・したのよ?




は再び顔が赤くなっていくのを感じた。


カカシさんとキス、したんだぁ////



舞い上がる


しかし、その頬の熱もすぐに冷める。

きっとカカシさんはそんなつもりじゃない、ってさっき思ったばっかじゃない。
取り敢えず、気にしないで・・・





無かったことにしよう。





たかがキス1つ
されどキス1つ





お互いのわずかなズレが
これからの2人を噛み合わなくしていくのは




言葉が足りないせいもあるのだろう。











さーて甘いのかと思いきやなにやら怪しい雲行き。
せっかくカカシ先生勇気をだしてやっとさんにちゅーしたのに、
こんな結果ってひどすぎますかねw

これから、ラストに向けてテンポよくいきたいです。

にしても前後の長さが違いすぎるってどーよ、コレ。
すみませんうまい具合に切れなかったんです〜〜(涙

それにしても、リアルは冬に向かってるのに
こちらは夏だなんて・・・・(ぐはぁ

読んでくださってありがとうございましたー。
次回お楽しみにvv